母にカレンダーを作ることを思いついてから、生きているうちにできることはないか、競うように皆で探した。 妹は母の足をマッサージした。私は腕や脚にボディーローションを塗った。「リップクリームを塗って欲しい」という母よりのリクエストに父が応えた。 拭き取り化粧水で顔を拭き、うぶ毛をフェイスシェーバーで剃った。最後に爪を切るこ...
関西に住む母の姉(私の伯母)に会う壁紙の張り替え、電気工事美容室へ行くことお世話になった人に手紙を書くこと水のいらないシャンプーで洗髪すること爪を切ること 母に頼まれて買った便箋類。ひとことだけ書けば済む一筆箋も用意した。 母の手帳には、レストランや旅行、本についてのメモがたくさん残されている。 興味を持ったことがぎっ...
母が日付を訊ねるようになった。 変化のない病室の暮らしでは時間の感覚がわかりにくくなるだろうし、痛み止めの薬の影響なのか見当違いなことを言う日も増えてきて、自分でも気にするようになったのだろう。 「今日は1900何年?」「2016年!」 猫の日めくりカレンダーを作ることにした。とびきりかわいくて、元気の出るやつ。生きて...
遺影というものが苦手だ。 実物より大きな顔や、不自然に修正された服装や背景を見ていると、落ち着かない気持ちになってくる。 自宅で療養していた8月、母は一日中寝て過ごすことが多かった。起き上がって話せる体調ではなかったこともあり、私や妹が実家へ行くことは断られた。 私は仕事を休んでいたのでエネルギーを持て余していた。楽し...
秋の始めは、病院と実家とを行き来する日々を送っていた。 再入院した母の体調が思わしくなかった日、父と話しているうちにどちらからともなく葬儀の話になり、地元の葬祭業者の名前を教えてもらった。父は親族のみでの家族葬を考えていた。 別の日、病院で父と一緒になったので、帰りに家族葬の会場に見学に行かないかと提案した。 業者に連...
さっぱりしていて、はっきりしていて。不要なことは不要、嫌なことは嫌と言う母だった。 実家との行き来が楽になるよう、ペーパードライバー講習を受けようと考えていることを話すと「あなたがそうしたいならそうしなさい。実家のためにするのであればしなくていい。」 買ってきた乾電池の余りを実家に置いていこうとすると「そんなに使わない...
父と母がスマートフォンを持つと、妹がメッセージのグループを設定してくれた。iPhoneのメッセージの機能がシンプルだったこともあり、2人は思いがけなくすぐに慣れた。 交わされるメッセージは些細なこと。朝のあいさつ、食べたもの、動物の画像、変なニュース、仕事が終わった知らせ、おやすみのあいさつ。 母の体調が悪くなるにつれ...
母の育てていた植物は3つ。ベランダに置かれた身長ほど高さのあるミモザと、膝の高さくらいのラベンダー、そして室内にある大きなパキラ。 起き上がるのが辛くなってきた母の世話と慣れない家事で余裕がなかった父は、ラベンダーの水やりをついにあきらめてしまった。 根元はまだ生きている。枯らす覚悟で育ててみることにした。 手で運べる...
病気がわかってから、母が家で過ごしていた頃のこと。 家族4人が集まると、寿司の出前を取ることがよくあった。この町で一番の、ずば抜けて味が良く、昔はタクシーに乗って食べに行った店。その後も繁盛していたようで、出前専門店ができていた。 寿司を食べようと誘うのはたいてい父で、注文は決まって「地魚にぎり」。鰺と卵焼きと、・・・...
母の最初の入院を知って実家に帰ったとき、まず心配したのは冷蔵庫の中身のことだった。 「ぬか床!」 慌ててかき混ぜた。急な入院だったこともあり、きゅうりが漬かったままだったが、ぬかは無事だった。 退院後、母は自宅で療養していたが、時々はキッチンに立っていた。その頃、ぬか床の手入れについて訊ねた。 一通り教えてくれたあとに...
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