母にカレンダーを作ることを思いついてから、生きているうちにできることはないか、競うように皆で探した。
妹は母の足をマッサージした。
私は腕や脚にボディーローションを塗った。
「リップクリームを塗って欲しい」という母よりのリクエストに父が応えた。
拭き取り化粧水で顔を拭き、うぶ毛をフェイスシェーバーで剃った。
最後に爪を切ることは、タイミングが合わず叶わなかった。
入浴ができなくなっていたので、体を拭くウェットティッシュでおでこ周りの頭皮を拭いた。そうすると母はいつも眠ってしまうのだった。
ストローのついた容器で水を飲ませ、細かくカットした果物を食べさせた。巨峰を「おいしい!」と喜んで食べてくれた。
キンモクセイの花の香りを嗅がせようと病室に持っていくと、にっこり笑ったけれど香りは「ノーサンキュー」。そうだ、母はキンモクセイの香りは芳香剤を連想するから好きではないのだ!
話しかけても反応が少なくなり、できることがなくなってきてからも、カレンダーと花を飾り続け、目を覚ました瞬間を狙って母に見せた。少しでもこのままの状態が続くように祈りを込めて。
何かしたくて仕方がなかった。そうしていることで精神の安定を図っていたように思う。
新しいアイデアが見つかるたびに父がとても喜んでくれたのもうれしかった。
元気だったら、せめて会話ができる状態だったら、もっともっとできることがあったのに。考えてもどうにもならないけれど、今でも残念だ。
とにかくあのころはエネルギーが湧いてきて、動かずにいられなかったのだ。たとえ意味のないことであっても。
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