パイン缶の見た未来

実家の玄関の扉を開けると古い段ボール箱がある。
中身は非常用品。大したものは入っていない。

備蓄品の缶詰は賞味期限が何年も前に切れている。
しかもフルーツばかり何缶もある。そのうち4缶がパイナップルだ。
処分するなり、どうにかしないといけない。

パイナップルの缶詰

缶には母の字で日付が記されている。
自分が生きて災害を迎える未来の日を想定しながら書いたであろう文字。

できれば缶を開ける日が来ない方がいい。
その日は結局訪れないままパイン缶は日付を越えた。

「母がこの世にいなくて、災害も起こらなかった未来」が正解。

母の部屋を片付けていると、なんとなく体調の悪さを感じていたが病気に気づいていなかった頃に買った手芸のテキストがあった。

母は未来を生きて「おしゃれに体型カバーするチュニック」か何かを縫うつもりでいた。

すてきにハンドメイド

パイン缶を開けて味見してみたら、味は変わっていなかった。

1缶で牛乳寒天を作り、残り3缶と他の果物の缶はヨーグルトに入れて、父と同居人と3人で、数日がかりで食べ尽くしてしまった。

これもまた母の知り得なかった未来。

いずれ訪れるであろう災害に備えて次の備蓄品を買わなくてはいけない。
フルーツだけだとのちのち持て余す。今度はしょっぱい物も入れよう。

父の分だけ用意したらいいのだろうか?
それとも我らを入れて3人分?

未来はまたも分岐している。
今度のパイン缶はどこにたどり着くのだろう。

「オレが生きるのはあと5年くらいだ」と父は言う。
それでは次回も缶詰の消化を手伝ってもらおうか。

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