【03】母の「終活」と、父への猛特訓

残された時間を知った母は、最初の入院より戻ってくると、猛烈な勢いで「終活」を始めた。

まず、私と妹にアクセサリーやブランド品などを分け与えた。
そして、定期購入していた化粧品を解約し、エアコンとキッチンのクリーニングを手配した。
そのうち買い替えようと思っていたもの、例えばポット、カーテン、座椅子、ハンディースチーマーなどを次々に購入。
身の回りの物の整理も少ししたようだ。

それと同時に、台所にほとんど立つことのなかった父に、ご飯の炊き方、味噌汁や鍋物、炒め物などの簡単な料理を教え、シニア男性向けのレシピ本も購入した。
掃除、洗濯、ゴミ捨てなど、最低限の家事を父に特訓。そのおかげで今、父は母の確立したシステムに則って生活することができている。

銀行口座の1つも解約した。
痛みでほとんど外出のできなかった頃だったが、父と二人でタクシーに乗って銀行へ。窓口で現金の使い道を聞かれると「ショッピングと海外旅行です!」

体調が悪くなりベッドに横になる時間が増えていく中、母は自分のやりたかったことを後回しにしてでも、父が一人で生きていくための準備に力を注いだ。

一番の心配は父の食事だった。
再入院した病室で、父の食事をどうするかについて母と話し合った。宅配のお弁当を利用することも検討したが、父の調理スキル向上への期待も込めて、まずは様子見をしようという結論に至った。

母はもっともっと準備がしたかったことだろう。でもきっと、母の「引き継ぎ」は、私や妹のサポートも計算に入れたぎりぎりのラインで完了できたのではないだろうか。

今でも、ちりれんげが見つからない、シーズンオフの衣類の在処がわからない、用途不明の謎の調理器具があるなど、ちょっとした不便はいろいろあるが、笑えるばかりの些細なことだ。

料理を習った成果は全く感じられないが、今のところ、父はなんとか暮らすことができている。


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