病気がわかってから、母が家で過ごしていた頃のこと。
家族4人が集まると、寿司の出前を取ることがよくあった。
この町で一番の、ずば抜けて味が良く、昔はタクシーに乗って食べに行った店。その後も繁盛していたようで、出前専門店ができていた。
寿司を食べようと誘うのはたいてい父で、注文は決まって「地魚にぎり」。
鰺と卵焼きと、・・・あとは何の魚だろう?
わからないけれど、おいしくて、食べやすい。
母は食べられる量が徐々に減ってきていたけれど、寿司だけは驚くほど食べることができた。
ほんの一口チューハイを飲み、おいしそうに食べる姿を見られることの、なんとうれしいことよ!
母の残した寿司は私が引き受けて食べた。
母の食べられる量がいよいよ少なくなってくると、私がいくつ上乗せで食べなければいけないのかが気になって、せっかくの寿司の味がよくわからなかったけれど。
最後の寿司は母からの誘いだった。
お盆休みでいつもの店は注文でいっぱい。残念ながらチェーン店からの出前となったが、母はおいしそうに何貫か食べた。
再入院し、食事が口から摂れなくなっても、母は夢で中トロを食べていた。
寿司というのはなんという力を持っているのだ!
入院して母のいなくなった家で、「お寿司が食べたいな」と父。
二人きりで食べる寿司、ゆったりと自分の分を味わい、病室の母を想った。
(続きはこちら)