料理は、唯一父が苦戦している家事だ。
母よりの猛特訓を受けた父。
野菜炒めやスープなど、いくつか教わっていたはずなのだが…。
「オレには無理だなぁ」とあっさりあきらめてしまった。
父のために買ったシニア向けの料理本は真新しいままだ。
イメージ通りに作れなかったり、おいしくなかったりしたのだろう。
私が毎週やってくることも父の進歩を妨げている。
洗い物が嫌いだと言う。
「ゴム手袋をしたときにトイレに行きたくなって困った」と苦しい言い訳。
(えー、なんなのそれ!)
それでも、スーパーのお弁当とカップラーメンに飽き飽きしていて、「料理を作ってみたい」という気持ちはあるらしい。
ときどき、私の作ったおかずに「これどうやって作ったの?」と興味を示す。
「わかった、やってみよう」
(えー、ほんとに?)
父の中で「オレには無理だなぁ」と「作ってみたい」が戦っている。
父のアタックはいつも突然始まる。
雨の日や寒い日には、買い物に行きたくなくて「辛抱たまらん」となるようだ。
家の在庫でなんとか食べるものをひねり出すようになった。
かた焼きそばを買い、野菜を切って炒め、付属のたれの味が濃いので好みの濃度に薄めてあんを作った。
そして「とろみをつけたい」と言うので、水溶き不要の片栗粉を買ったら見事に使いこなした。
さらに、私が置いていく野菜スープにとろみをつけて、かた焼きそばのあんにアレンジ。
お見事!やるじゃない!
野菜や肉を加えて調理するキットの存在にも気付いた。
父の挑戦はまだまだ続く。
- アルミカップのもつ鍋に切った野菜を追加
- サッポロ一番味噌ラーメンに冷凍のコーンを追加
- 味付き肉と切った野菜を炒める(もはやちゃんとした「料理」ではないか!)
最近はレンジで調理できるキットも見つけた。
お弁当に飽きたらこんなメニューもいいだろう。
なにより父は汁物が大好きだ。
小さい頃、気が向くと父が作ってくれるチャーハンが妙においしかったっけ。
私は知っている。本当は父にも料理はできるのだ。
(がんばれ、父。)
今、父と料理の関係はさわったら壊れてしまいそうにデリケートだ。
声に出すとくじけそうだから、そっと心の中で応援することにした。