母が日付を訊ねるようになった。
変化のない病室の暮らしでは時間の感覚がわかりにくくなるだろうし、痛み止めの薬の影響なのか見当違いなことを言う日も増えてきて、自分でも気にするようになったのだろう。
「今日は1900何年?」「2016年!」
猫の日めくりカレンダーを作ることにした。
とびきりかわいくて、元気の出るやつ。
生きている母にしてあげられることがまだあることにとても驚き、本当にうれしかった。
父と妹と一緒に夕食を食べながら急に思いついたアイデアだったが、翌日から母に見せたかった。
そこで、簡単に作れるものにした。
Powerpointのスライドに、テキストと猫のイラストの画像を配置しただけ。ただし、猫は母にぴったりなものを。妥協したくなかった。
プリントした紙を100円ショップで買った画用紙に貼り、幅の広いクリップで束ねて完成。
とりあえず4枚。
病室の味気ないカレンダーの代わりに掛けたら母はとても喜んでくれた。
父も妹も、新しいイラストを楽しみにしていたし、それを母に見せてあげられることをうれしく思ってもいたようだ。
看護師さん達も見てくれていて、朝のうちにカレンダーをめくってくれているときもあった。
ぼんやりした状態の母が「じっくり見たい」「台紙が重いから剥がして」と言って無理矢理プリントを台紙から剥がしたことがあり、その後からはプリントが簡単に剥がせるようにマスキングテープで仮留めした。
カレンダーは何度も追加され、分厚い束となった。
病院に向かう直前にカレンダーの不足を思い出して急に作ることもあり、簡単に作れるデータであることに助けられた。用紙を切らしてコンビニでプリントしたこともあった。
私が気に入ったイラストがあると、母がなんとかその日に生きてたどり着いて猫を見られるように、祈るような気持ちで作った。
カレンダー作りは、私にとって母の命が続くためのおまじないのようなものになっていった。
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